失敗は最大のチャンス!イラストの挫折で得たこと
先日Twitter上で、尊敬するイラストレーター・高田ゲンキさんとお話をさせていただいた際、「失敗することは大切」という話題になりました。
特に日本は、失敗やミスを許さず、徹底的に責め、やり直しを阻害する風潮が根強いと感じます。
絵を描けば「下手なのによく世に出す」「もっと上手い人はいる」英語を話せば「発音がおかしくて聞いてられない」「文法がおかしい」ブログを書けば「文章が下手」「もっと文章を練習しろ」など、第3者からの”失敗”への攻撃があとを立ちません。
この周囲からの圧力、”恥”の文化、それによって起きる自己嫌悪や低い自己評価によって「失敗が嫌だからやらない」という土壌の深刻さを感じます。
でも、そもそも”失敗しない”人なんて、この世界にいるのでしょうか?
独立に当たって、経営者の方達とお話をする機会が増えてきました。
ですが、現在どんなに輝かしく成功している人や夢を叶えている人であっても、失敗せず、順風満帆で成功された方はいません。
失敗をバネに、数々のことを乗り越えてきた方達ばかりです。
私も独立してから、経済的なこと、手続きのことなど失敗だらけで目も当てられないですが、それでも何とかやっていけています。
また過去に死ぬほど失敗してきたことがあってこそ、何とか今に至っています。
今回は、私の新入社員時代の大失敗と、その失敗で得たことについてご紹介します。
まさにイラストレーターになる”転機”となった失敗なのですが、「失敗するの嫌!」と怖くてなかなか前へ進めない方の、ご参考になればと思います。
「描かないほうが良い」新入社員の時の大きな挫折
就活後、私は地元メーカーの商品開発室に入りました。
そこは、年間を通して発売される新商品を企画・開発する部署。
商品企画や生産国である中国工場への出張が多く、大変忙しい部署でした。
そんな商品開発の業務に終われる中、商品カタログを作ることになりました。
カタログ表紙用のイラストが必要になり、上司から「お前、入社のとき得意って言ってたよな。描いてみるか?」と言われました。
「やっと大好きな仕事まわってきた〜!」「これなら私も役に立てそう!」と感動し、意気揚々と描いた表紙イラスト提出すると…
「こんなイラストなら、描かないほうがよかったな。つっまんねえ絵〜!」
と開口一番、全否定。
(この上司のセリフ、脚色一切なしです。今でも鮮明に覚えています。笑)
この時、私は生まれて初めて「得意だった絵を、他者に徹底的に否定される」という、大きな挫折を味わいました。
「得意なこと」を否定される辛い日々
その後、イラストを何度提出しても、上司からは否定の嵐。
しかも上司は相当口が悪く、前述のような容赦のない罵倒の言葉を、毎日のように浴びていました。(当時はそれが原因で、先輩後輩が何人も退社していきました…。)
ただでさえ入社したばかりでストレスが多いのに、唯一得意だったイラストまで否定されてしまう始末。
他に得意なこともなかった自分は「仕事で何をやったらいいのか分からない」「私って本当に役立たずなんだ…」という、途方にくれる毎日を過ごしました。
今思い返しても、この時期は眠れず深夜にフラフラ散歩に出かけたり、ふと気がつくと涙がボロボロ出たり、上司に徹底的に怒られた後トイレにこもって泣いたり、かなり精神的に追い詰められていました。
大好きなことは、どうしても諦められない!
そんな毎日でしたが、「でも、絶対にイラストだけは負けたくない!イラストで、上司をギャフンと言わせてやりたい!」という負けん気だけは、心の中にずっとありました。
それは、絵を描くことがとにかく大好きだったからです。
絵を描くことは、子供の頃からずっと大好きで、何十年も続けていることでしたので、イラストだけは何があっても諦めない!何を言われたって、私にはこれしかないんだ!という強い芯のようなものがありました。
「自分が描きたいものを描くな。見る相手を想像して描け。」
そんな中、否定されている私を不憫に思ったのか、同じ部署の先輩がそっと声をかけてくれました。
そこで先輩から
「萩原さんは、このイラストをどういう意図で描いたの?
こんなのIllustratorの技術を使えば、誰でも描けるでしょ。
“自分が描けるもの”を描いても、意味ないよ。
イラストを見た人が、どう思ってほしいのかを考えなよ。」
というアドバイスをもらい、ギクッとしました。
私は「子供向けだし、かわいい動物を描けば良い」と思って描いていたけど、このカタログを、どんな人が見て、どんな風に感じて欲しいのかは、1ミリも考えたことがなかったのです。
ここで初めて、仕事で描くイラストとは「相手ありき」で描くものだ、という認識をしました。
学生時代、自由に気ままに「自己表現」として描いてきたイラストが、仕事という枠の中では、全く違うものになる、ということを実感したのです。
最後は社内イラストレーターに
そこから自分のイラストの描き方を見直し、めげずに提出していると、あれだけ罵倒していた上司が「ふーん、いいじゃん」「けっこう描けるじゃないか」と評価してくれるようになりました。
1年ほど経つと、描くスピードが上がり、イラストを商品製造に適したデータで提供できるようにもなり、上司や他部署の人たちから「こういうイラストを描いてほしい」という依頼をいただくようになりました。
また、イラストが実際に採用され売れると、さらに評価していただけたので、実績が分かりやすく、自分のモチベーションも上がりました。
この時期、会社員とはいえ“社内イラストレーター”になれたことが、後々の独立に繋がる大きな自信につながりました。
失敗とは”不幸印のギフト”である
新入社員の挫折体験をご紹介しましたが、私はこの時の挫折は「不幸印のギフト」だと思っています。
この言葉は、私が尊敬している作家・医学者の泉谷閑示さんが、著書で提言されている言葉です。
例えば私の場合、イラストについて厳しい評価を受け取りました。
この評価こそが、私にとっての「不幸印のギフト」です。
このギフトは、箱に大きく「不幸」と書いてありますので、受け取る側は、絶対に受け取りたくありません。「絶対いや!そんなもの開けたくもない!開けたらとんでもないことが起きる!」と、受け取りを拒否します。
私の場合も、、このギフトを受け取ると「こんな絵描かないほうがいい」=「自分のイラストには価値がない」ということを認めることになりますので、最初はとにかく否定しました。
「違う人が見たら、良いといってくれるんじゃないか…」
「上司の個人的な意見だし…」
別の誰かに頼む、あるいはやっぱり無理でした〜と断るなど、逃げ道もごまかす方法もありました。
しかしそこでギフトを受け取る決心をしたのは、自分が大好きなことだったからであり、絶対にここで負けたくない!という意思があったからです。
ギフトは、私のように人からの厳しい意見であったり、人間関係のトラブルであったり、心身の病であったり、仕事のミスであったり、人によって様々です。
それは、自分が覚悟を決めて開封するまで、繰り返し、何度も送られてきます。
それはその人が、自分のために”いつか”は向き合わなければなければならない、大事な「気づき」です。
私の場合は「そもそもイラストとは何か?」「仕事としてイラストを描くことは、どういうことか?」ということに気がつく、大きな転機となりました。
上司の言葉は強烈でしたが、なんとかそれを受け取ったことで、自分の問題点や、これからやらなければならないことに、気づくことができました。
失敗は最大のチャンス!
私自身、未だになかなか受け取れない「不幸印のギフト」がたくさんあります。
送られてくるたびに「ああ、分かっちゃいるけど、これと向き合うのしんどいなあ…」と感じます。
このギフトは、受け取るだけの勇気と、”背水の陣”のような覚悟が必要です。それが自分の中で育つまで、何十年もかかることもあるだろうと思います。
ただ、失敗しなければこのギフトはやってきません。
失敗しないことは、つまり何もしないということ。
何もしなければ失敗しませんし、前と同じことをしても、ほぼ失敗しません。
私たちが失敗するときは、何か「新しいこと」をしたとき。
挑戦したりチャレンジすれば、ほぼ失敗がついてまわるということです。
私も前述のイラストの挫折で鼻をボッキリ折られましたが、この失敗で得たものは、計り知れません。
この失敗も、まずは「イラストを描かせてください!」と手をあげ、挑戦したところから始まりました。
この先、「やめとけばよかった〜」「ああ失敗した〜」と痛い目をみること、ショックを受けること、自尊心が傷つくことが、多々起きることと思います。
それでも私は、その先にある気づきのために、手をあげ続けたいと思うのです。